特 別 寄 稿

中部大学 創発学術院

牛田 一成 教授

京都大学農学研究科畜産学専攻博士後期課程修了、フランス留学の後、京都府立大学助手・助教授・教授を経て、2017年より中部大学創発学術院教授を務められています。

腸内細菌研究の第一人者であり、私が京都府立大学・大学院在籍時の恩師にあたります。

御多忙の中、この度の起業に際し、激励のメッセージを寄せて頂きました。


菊池さんは、20世紀の末期(こう書くとずいぶん昔に思えますね)に、大腸の中で腸の粘液に住みつく細菌が何かを研究していました。

粘液物質を小試験管に入れて、それをマトリョーシカ人形のように通常の嫌気性培地を入れた試験管の中で培養したり、いろいろな工夫をして細菌を分離してきます。分離しないままの細菌の集団からDNAを抽出して解析することも試みました。

当時は今と違っていわゆる次世代シーケンサーがない時代だったので、丸ごと細菌のDNA網羅的に解析するといってもコツコツやらないと全貌が見えません。

得られたDNAの配列情報を系統樹に落とし込むと、研究室の天井から垂れ下がるくらいの長さの図が出力されて、当時 理化学研究所の微生物学の部屋でRAをやっていた彼の先輩が、それを理研で見せたところ半ば呆れられながらも感心もされたことを思い出します。

系統樹を丸い形に出力するソフトウェアが、まだなかった時代でした。思い返すとビッグデータという言葉が現れる直前の時代で、その時に工夫されていた器具や手法は時代遅れのものとなって捨て去られていきました。

DNAの配列情報を読み取るシーケンサーもその後の20年間で、新しいものができては消えることを繰り返しながら今に至っています。

それで、今も昔も変わらず残ったものは何かと考えると、細菌の分離技術でした。

微生物学の基本に忠実であれば、当たり前かもしれません。

何かを作ろうとすると「分類情報だけの細菌」にはほとんど意味がないからです。

菊池さんが、コツコツと工夫をしたのが、狙った細菌を捕まえる器具と方法であったのは幸運だったかもしれません。

ものを作るレシピには、定量化されない何かが未だに含まれるということを知る契機になったと思うからです。


私は、最近では野生動物の保全、とくに飼育下繁殖個体の野生復帰に携わっていますが、その基盤は、これまでの研究生活の中で培ってきた腸内細菌学、栄養生化学の力を使っています。

「野生で生き抜く力」の源泉は、多くの場合、その動物の腸内細菌にあります。

飼育されることで野生の生活に必須の腸内細菌が失われてしまうことを解決しようと研究を続けています。

その意味では、「人間の生き抜く力」も 同じなのかもしれません。


〜次回

「腸内細菌から見た食品の開発について」に続く〜 


ガボン ムカラバ国立公園のキャンプ地に作った「実験室」にて