特 別 寄 稿 パート2

前回に引き続き、牛田先生から頂きました原稿を掲載します。

中部大学 創発学術院

牛田 一成 教授

写真 ウガンダ 食堂にて

腸内細菌から見た食品の開発

食品は、もちろん美味しくて栄養になるためのものです。食品の機能性というのは、成分が直接身体に働きかけて生じるものですが、その多くに腸内細菌が関与していることが明らかになってきました。

食物繊維の機能の多くが、消化されないという物性からだけではなく、腸内細菌による発酵から生じる短鎖脂肪酸で説明できることもわかっています。

生体防御との関わりが期待される食品の場合、腸内細菌の働きを無視することはできません。たとえば難消化性の食品成分としてよく知られた食物繊維には、難消化性のオリゴ糖や抵抗性デンプン(レジスタントでんぷん)のような糖質のほか、いわゆる繊維ではないですが、塩基性アミノ酸が多く含まれる難消化性タンパク質(レジスタントプロテイン)まで機能的には含まれます。

こうした難消化性の成分は、未消化のまま大腸に到達し、そこで腸内細菌によって発酵されます。発酵産物には、大腸の粘膜から吸収されビタミンB類や短鎖脂肪酸のように栄養成分として働くものほか、酪酸のようにガン細胞にアポトーシスを誘導するものや抗菌性のペプチド類など保健効果を持つものもあります。

細胞壁の成分や菌体内の核酸のような腸内細菌の成分そのものが、腸の上皮細胞やマクロファージや樹状細胞など粘膜免疫系の細胞を刺激して、生体防御宇能力を高めたりアレルギー反応を抑制したりするほか、吸収された発酵産物が腸の神経活動や内分泌細胞にまで影響を及ぼし、その結果、動物の行動を変容させることも、この20年あまりの研究の中で明らかになってきました。

いわゆる脳腸軸(Brain-Intestinal Axis)とよばれるものの実態が明らかになってきたのですが、その中で、腸の細胞が作る大量の内分泌物質、腸に走行する自律神経や運動神経など「第二の脳」とまで呼ばれる腸の機能が特定の腸内細菌とそれらが作る化合物の影響を受けていることも示唆されるようになっています。

食品機能性のターゲットとしての「特定の腸内細菌」の意義は、ますます重要になっていると思います。


モノを取らないことには開発も進みません。食品の機能性開発とは如何にして機能性を担保する「モノ」を取ってくることかということだと理解していますが、その「モノ」の示す機能が、特定の腸内細菌の働きを介する可能性がある場合は、そのモノとだけではなく、それとは別の「モノ」である 腸内細菌も手に入れる必要があるでしょう。

著書 

アニマル・メディア社:ゴリラの森でうんちを拾う —腸内細菌学者のフィールドノート—

https://www.animalmedia.co.jp/magazine/other/024.php

さ・え・ら書房:先生、ウンチとれました

https://www.saela.co.jp/isbn/ISBN978-4-378-03920-6.htm

写真 ウガンダ コンゴ国境のマウンテンゴリラの群れ