本物を知る、本質を見極める

前回に引き続きまして、加西商事株式会社取締役の沼野藤憲さんにお相手を頂きます。

加西商事株式会社
取締役 沼野 藤憲 様

(N)

ところで、食品開発において、菊ちゃんの得意なことって何ですか?例えば、梅ガムってあるけど、梅自体は入ってないでしょう?梅干しは食べたことあるけど、梅の味ってあまり馴染みがないですよね。だけど、梅ガムの味や香りを感じて、梅を連想しています。

(K)

人間の味覚や嗅覚など五感は、結構人間の記憶に影響されていますよね。青果でブルーベリーなんか無かった頃、とある会社のガムの味がブルーベリーだと思っていました。実は、就職して最初の会社が香料会社だったので、そこでは色んな香りを調香し、お菓子にして官能、評価したりしていました。ただお客様のイメージは、モチモチとかプルルンと言った食感を作り出すマジシャンって感じでしょうか?(笑)

(N)

食感ですかー。こんにゃくゼリーって昔、喉に詰まらせたとか事故があったけど、今はそうならない様になっているんですか?

(K)

いわゆるこんにゃくゼリーは、大手スーパーからは姿を消し、中に果肉を入れたり硬さを調整したりして一定の力でゼリーが崩れる様になっています。従来のこんにゃくゼリーは、ドラックストアーなどに行かないと買えないですね。

(N)

なんか寂しいですよね。

そういう意味で言うと、遊具にも安全性が求められています。昔だったら、遊具に指を挟んだら、挟んだ自分が悪かったけど、今なら例えばブランコの鎖の部分を被覆したり、鎖自体をやめてしまったり、遊具メーカーが責任を持って安全性を担保しています。昔は、ブランコの横に砂場があってブランコからジャンプして砂場に着地すると言う遊びをしましたが、今は砂場で遊んでいる子供に危険が及ばない様に近くに作ってはいけません。要するに、遊具の遊び方を大人が決めているんですよ。だからうちらの子供の時より、公園が面白くなくなっていると思います。ボーネルンドとか北欧系の遊具は子供の想像力を掻き立てるけど、日本の遊具は大人が考えているから面白くありません。公園で遊ぶ子供が減っている一つの要因だと思います。

(K)

「遊具の遊び方を大人が決めている」って、名言ですね!

(N)

うちらの業界で言うと、石積みなんかもそうなんです。石垣を作る場合、公園だと石と石の隙間(目地)がなくなる様にコンクリートで埋めろと言われます。そんなことならわざわざ石で作らなくてもタイルかなんかで良いのではないか、折角の風情や趣きが無くなり、作り手の意欲も半減してしまいます。PL法ができたことにより、全て生産者の責任ということで片付けられ、チャレンジする生産者が減ってきています。

(K)

食品でいうと、例えば葛餅や葛切りに用いられる葛粉は、水と合わせて加熱すると透明で粘調な物性になるが、時間が経つと白濁して固くなります。ですから京都の老舗和菓子店では、注文を聞いてから葛切りを作ってお客様に提供します。当然お持ち帰りなんて出来ませんから、お店でしか味わうことが出来ないので行列になっています。一方コンビニでは葛粉で作った葛切りは置けないから、加工デンプンやゲル化剤(増粘多糖類)を使って日持ちする葛切りにしています。そう意味で、私達のような人間の出る幕があるんですけどね。

(N)

蕎麦もそうですよね。年越しそばで食べる温かいお蕎麦は、本来なら邪道です。と言うのも、つなぎをほとんど使用しないお蕎麦は、汁に浸かっているとどんどん劣化していくので、冷たいそばには最適だが、汁物に入れる場合は小麦粉などのつなぎを増やさないといけません。スーパーにおいてある「そば」なんか、そば粉の比率が低く、うどんなのか蕎麦なのか微妙なものもあります。一方で、シシャモのように本物よりも偽物(代用魚)の方が美味しいって感じている人の方が多いケースもあるよね。松茸のお吸い物なんかも、正直実際に松茸を入れたお吸い物なんて作ったことないけど、本当に美味しいし、パスタソースに入れても良く合います。消費者として騙されても「美味しい」と幸せな気持ちになれたら、それで良いのかもしれないですね。

(K)

食の在り方は、時代の変化と共にどんどん変化していっていますし、それが決してダメなことでも無いと思います。当然ながら、昔ながらの原料、製法を守っていくことも大事ですし、時代のニーズに合わせた新しい形が生まれることも大事なことだと思います。そんな中、食品の原材料表示やカロリーなど、スマホでその商品の内容や口コミを見て購入する消費者も増えています。食品の選択肢が増えた中で、より自分にマッチした商品を購入する賢い消費者も増えてきていると思います。

(N)

そう意味で、やはり本物を知る、本質を見極める力が今後重要になっていくと思います。

(K)

我々世代もまだまだこれからですが、これからの世代にもこの「力」を育てていけるように取り組んでいきましょう!!本日はありがとうございました。

左が沼野氏、右は筆者

加西商事株式会社

http://kasai-business.co.jp/